赤と金のアオザイで正装したグエン・コーさん (C)Chris Humphrey/dpa

[ハノイ発 (ドイツ通信社dpa)]ベトナム南部から中部にかけての沿岸部の漁村には、クジラの精霊を祀り、海での安全や豊漁を祈願する「クジラ寺」が多数存在する。

 ベトナム中部沖のリーソン島にある寺院の石段から体長6メートルのクジラが埋められた巨大な塚に視線を向けるのは、84歳のグエン・コーさん。しわだらけの顔に満面の笑みを浮かべている彼は、島のクジラ信仰のリーダーである。

 赤地に金色の模様が入った伝統的なアオザイを着たコーさんによれば、「クジラは海で嵐に巻き込まれた漁師を助けることがある」という。「クジラは海の神だと信じられている。頭がよく、溺れそうな人を助けてくれる。だからここの漁師はクジラを捕まえたり、食べたりしない」

 コーさんは若い頃に漁師をしていたが、今は引退している。漁師時代には、海岸で多くのクジラを見た。海岸にクジラの死骸が流れ着いたら、発見した漁師は自分の家族を失ったのと同様に喪に服さなければならない。「クジラを発見した漁師は埋葬の儀式を行い、3年間は弔わなければならないんだ」とコーさんは言う。

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