「重要軍事演習」で発射されたミサイル(C)AFP=時事

 

 ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問を受け、中国の習近平指導部は、台湾を包囲した「重要軍事演習」を強行し、弾道ミサイルを相次ぎ発射した。「やられたらやり返す」を信条とする「戦狼外交」をパワーアップした「脅しの情報戦」と捉えるべきだろう。米国と一戦を交える考えなど毛頭もないにもかかわらず、実際の台湾侵攻を思わせるリアルな軍事演習映像を即座に発信することで、「台湾に触れれば、ただでは済まないぞ」と、米日欧の民主主義陣営や台湾の蔡英文総統に対して「本気度」を誇示することが目的だ。そして「敵」が委縮する間に、「台湾包囲演習」を常態化させ、「台湾封鎖」を既成事実化する――。

 日本を巻き込む習近平の危険なゲームが幕を開けた。

戦狼外交に心酔する国内ナショナリズムを味方に

 習近平指導部は、インターネットが普及していなかった1995~96年の「第三次台湾海峡危機」とは異なり、情報・サイバー戦などSNS時代における新たな危機の戦い方を意識している。

 8月2日夜、ペロシ議長を乗せた特別機が台北・松山空港に接近すると、中国メディアは一斉に、人民解放軍空軍スホイ35戦闘機が台湾海峡を横断したと伝え、緊張が走った。中国のSNS「微博(ウェイボ)」のアカウント名を見る限り官製メディア記者が発信源とみられるが、結局、台湾国防部が事実関係を否定し、フェイクと分かった。

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