スイスアルプスのリゾート地、ピッツパリュ山付近で見られる氷河 (C)REUTERS

[モルテラッチ氷河・スイス発(ロイター)]スイス人雪氷学者のアンドレアス・リンスバウアー(45)がクレバスを軽やかに跳び越えてゆく。その姿からは、彼が氷河を記録するのに必要な10キロもの機材を運んでいるとは想像もつかないだろう。

 彼は例年、夏が終わり氷河の融解が落ち着く9月下旬になると、巨大なモルテラッチ氷河のこのルートを行く。しかし今年は氷の融解が激しいため、緊急メンテナンスのために2カ月も早く15キロ四方の氷の円形劇場にやってきた。氷厚の変化を計測するのに使うポールが氷の融解によって外れてしまうおそれがあるため、新しく穴をあける必要があるのだ。

氷河の測定ポイントで穴を開けるリンスバウアーと助手のミルハイスラー (C)REUTERS

 研究者たちは冬の降雪量と夏の融氷量の差から、1年間にどれほど氷河が縮小したか見積もることができる。ロイターに特別に提供されたデータによれば、アルプスの氷河は今季、少なくとも記録が残っているこの60年間で最も失われた。

 アルプスでは、降雪量が比較的少なかった昨年の冬以降、二度にわたって初夏の熱波に見舞われた。7月の熱波ではスイスの山村ツェルマットでも気温が30度近くまで上がった。例年の夏なら標高3000~3500メートル地点で水が凍るが、この熱波の間はモンブランの頂上よりも高い標高5184メートル地点にならないと凍らなかった。

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