イラクが一層と混迷を深めている。
8月29日、イラクの有力な政治・宗教指導者であるムクタダー・サドル師が政治活動からの引退を唐突に発表した。首都バグダードでサドル師の支持者が議会での座り込みを続け、約1カ月もの間、立法府を機能不全に陥らせていた最中のことである。
サドル師の引退表明を受け、議会で座り込みを続けていたサドル支持者は首相府等の複数の政府庁舎にも侵入、これを排除する政府の治安部隊や、サドル派と対立する民兵勢力と衝突になった。衝突は一部で銃撃戦に発展したようであり、30名が死亡、数百名が負傷したと伝わっている。
衝突が発生して丸一日経過した30日午後、サドル師は支持者らに暴力の停止と解散を呼びかけ、31日現在は市内に平穏が戻った模様である。
組閣を阻まれたサドル師
現在のイラク政治の混乱は、昨年の国民議会選挙に端を発する。昨年10月10日に行われた選挙では、サドル師が率いるシーア派政治団体のサドル潮流が329議席中73議席を獲得して第一党になった。
サドル潮流はスンナ派第一党の進歩党(37議席)、クルド人政党第一党のクルディスタン民主党(31議席)と連合を組み、これまでイラク政治で常態化していた主要政党全てを包含する挙国一致内閣ではなく、一部の政党による多数派内閣の形成を目指した。イラクではシーア派から首相を選出することが慣例化しているが、サドル派は世俗的な無党派であるムスタファ・カージミー首相を続投させることで、自身の影響力を確保しようとした。
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