五十鈴川(写真)のほとりに、アマテラスを祀る伊勢神宮内宮がある(筆者撮影)

 多神教世界の神は、暴れ回る力が強いほど尊ばれた。丁重に祀れば、恵みをもたらす神に裏返ると信じられていたからだ。この理屈から言えば、スサノヲ(素戔嗚尊)は日本最強の神として称えられるべきだったが、神話の中で簑笠を着せられ、蔑まれた。これは、スサノヲが8世紀の朝廷の政敵だったことを暗示している。スサノヲは、単純な架空の存在ではない。それどころか、ヤマトの王家の祖神の誕生に、深くかかわっていたようなのだ。

天皇家の祖神を生んだスサノヲ

 天皇家の祖神はアマテラス(天照大神)とスサノヲの誓約[うけい](誓いを立てて神意を占うこと)で生まれた。経過は以下の通り。

 スサノヲの荒ぶる様子をみたアマテラスは、天上界が奪われるのではないかと恐れた。するとスサノヲは、身の潔白を証明したいと申し出たのだ。スサノヲが男子を生めば、無実の証しだという。そして、二柱の神のそれぞれの所持品から子が生まれていく。まず『日本書紀』の本文では、アマテラスがスサノヲの十握剣[とつかのつるぎ]を求め、天真名井[あまのまない]にすすいで噛み砕き息を吹き付けると、女神の宗像[むなかた]神が生まれた。スサノヲはアマテラスから髻[みずら]・鬘[かずら]・八尺瓊[やさかに]の五百箇御統[いおつみすまる]を求め、天真名井にすすいで噛み砕き、息を吹きかけると、天皇家の祖となる男神の正勝吾勝々速日天之忍穂耳尊[まさかつあかつかちはやひあまのおしほみみのみこと]らが生まれた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。