サッチャーの真似でもジョンソンの真似でもないトラス像を構築できるか[英首相就任前、笑顔を見せるトラス氏=9月5日](C)AFP=時事

 ボリス・ジョンソン英首相の辞任表明にともなう英保守党党首選挙の党員による決選投票は、9月5日に結果が発表され、大方の予想どおりリズ・トラス外相が勝利した。翌9月  6日に首相に正式に就任した。投票結果は、トラス氏が8万1326票、対立候補のリシ・スナク前財務相が6万399票だった。トラスの得票率は約57%であり、各種の事前調査に比べると若干低かった

 ただし、トラス新政権の船出は順風満帆とはいい難い。それどころか、空前の危機的状況だ。ロシアによるウクライナ侵略が続くなかで、エネルギー価格の高騰による「生活費危機(cost of living crisis)」は厳しくなる一方である。トラス政権は英国をいかに率いることになるのか。本稿では、その前提となるジョンソンの退場の背景と影響を振り返ったうえで、トラス政権の課題を分析する。

「勝てる首相」ジョンソンの退場

 今回の党首選において最も重要な争点になったのは、生活費危機と呼ばれる物価高、インフレへの対策だった。しかし、通奏低音のように問われ続けたのは、やはり現職のボリス・ジョンソンの功罪であり、ジョンソン政権をどのように評価するのかだった。これは当然のことだろう。というのも、ジョンソン政権が正常に機能していれば、このタイミングで党首選を実施する必要がなかったからである。

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