「政治とは悪さ加減の選択」と語った福沢諭吉

 

 戦後最大の社会科学者、丸山眞男には2つの顔があった。戦前の天皇制国家の病理を完膚なきまでに解剖した『現代政治の思想と行動』(未来社)などの著者としての政治学者の顔と、荻生徂徠に「政治」を発見した『日本政治思想史研究』(東京大学出版会)などの政治思想史研究者としての顔である。丸山自身は前者を「夜店」と呼び、後者を「本店」と名付けた(「夜店と本店」『丸山眞男座談』9)。

 その2つとも常人にはとても到達できない高峰だが、丸山の存在自体を真っ向から否定したのが、評論家吉本隆明である。吉本は「一橋新聞」で丸山批判を展開したが、書き出しが衝撃的だった。

〈いま、眼のまえに丸山真男の『日本政治思想史研究』、『現代政治の思想と行動』、『日本の思想』の三著がおかれている。そして、それは肌合いのちがった奇異のものがあるということとおなじである。ここには思想家というには、あまりにやせこけた、筋ばかりの人間の像がたっている。学者というには、あまりに生々しい問題意識をつらぬいている人間の像がたっている。かれは思想家でもなければ、政治思想史の学者でもない。この奇異な存在は、いったい何ものなのか?〉(『吉本隆明全著作集』12「思想家論」)

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