内閣法制局よ、お前は何者なのだ

執筆者:江田憲司2009年6月号

霞が関の“秩序”を固守するため「法の番人」が法解釈をねじまげた。哀れな「俗人」となった彼らは、自らの存在意義を否定した。 世間で「法の番人」と呼ばれる内閣法制局は、霞が関では「法匪」と呼ばれていた。私が通商産業省(現・経済産業省)の官房総務課で法令審査を担当していた二十五年ほど前の話である。 内閣法制局は、内閣(政府)が国会に提出する法案について、閣議決定に先立ち“純粋に法律的な”見地から問題がないかどうか審査する役所で、その了承がなければ政府は一切の法案を国会に提出できない。総勢百人にも満たない小所帯だが、とにかく頑固で頭が固く、法律の「厳密な解釈」を盾に一歩も譲らない。各省庁の官房で法令審査担当となった者の表情は一様に暗くなったものだ。 担当になると、毎日、内閣法制局に通うことになる。通産省で実際の行政事務を担当する原局原課の法令作成担当(課長補佐か係長)と法案を携えて静まりかえった大部屋を訪ねると、衝立の向こうに設えられた半個室から担当の参事官(課長クラス)が顔を見せ、正方形のテーブルを囲んでの「無制限一本勝負」が始まる。 チェックは非常に細かい。法律的な観点のみから、「及び」や「又は」の使い方、さらに句点や読点の打ち方まで仔細に検討され、あっという間に数時間が過ぎ去る。参事官が法律論の宇宙に入り込んだが最後、「宇宙遊泳」から戻ってくる数時間後まで、担当者はひたすら待つしかない。朝十時から午前二時、三時まで雪隠詰めだ。

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