残された謎、遺された人生

執筆者:2022年11月6日
沖縄戦の遺族らと共に戦没者の名前を見つめる北海道沖縄会の黒田元会長(右から2人目) ©浜田哲二

 

「心の夫」のために貯めた3511万円

 北海道沖縄会で会計を担当していた鳴海美栄子さんは、1円の誤りも許さない厳格な仕事ぶりで一部の会員からは煙たがられていた。亡くなった大道正公さんの甥っ子を実の息子のように可愛がった、という美栄子さんのイメージとは、正直ギャップがある。だが、彼女がそこまでお金にうるさかった理由は、今から十数年前、札幌市内の藻岩山にあった戦没者慰霊碑を移転する折に判明した。移転費用の捻出に頭を抱えていた役員らが、美栄子さんが残した1通の貯金通帳に気づく。確認したところ、3511万円の残高が記載されていた。

 驚いて、古くから活動する会員らに事情を聞くと、「集めた会費や寄付金などを複利で運用しました。何かあった時にご用立てください」との美栄子さんからの引継ぎがあったという。勤めていた郵便局の金利が高かった時代から、無駄遣いしないで積み立てられた会の資産だった。それが、札幌の護国神社へ、新たな慰霊碑を建立する費用になったのだ。

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