「ゼロコロナ」放棄後も中国・重慶市の病院では病床が足りず、コロナ感染者はロビーの簡易ベッドで治療を受けていた (C)AFP=時事

 中国の習近平指導部は昨年12月7日、厳しい行動制限で新型コロナウイルスの感染を抑えてきた「ゼロコロナ」政策を放棄した。出口戦略のないまま「ゼロコロナ」を終わらせ、何の準備もなく「ウィズコロナ」に突入したツケは庶民に回った。感染爆発は多くの人々を苦しめ、3期目が始まったばかりの習近平指導部に対する信頼にも傷がついた。

「この人が死んだら」

 年の瀬が押し迫った昨年12月末、普段は北京で働く王さん(女性、30代)が山西省の実家から私に「北京に知り合いの医師はいないか」と連絡してきた。残念ながらいないと伝えたが、彼女は問わず語りに「人生で最も悲惨な数日間」を話し始め、罪を悔いるかのように「あの時、たしかに人の死を祈った。そんな自分が悲しい」と声を詰まらせた。

 王さんの話は下のような内容だった。90歳を超える王さんの祖母は12月下旬、咳が数日間続いた末、ある日の早朝に容態が急変した。王さんは病院などに「文字通り100件以上」の電話をして、最終的に知人のつてを頼り(ここはいかにも中国らしい)、深夜になってようやく受け入れてくれる病院を見つけた。「ベッドは空いたが、医師も薬も足りず満足な治療はできない。それでもよければきてもいい」という条件だった。

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