「大韓帝国」を通してみる朝鮮半島の現在

執筆者:森万佑子2023年1月28日
1863年、11歳で朝鮮王に即位した高宗(写真)は、日清戦争後の1897年に冊封体制から離脱独立した大韓帝国の初代皇帝となった

客体から見た『韓国併合』

 2022年8月、『韓国併合-大韓帝国の成立から崩壊まで』(中公新書)を出版した。

 これまで歴史研究者が「韓国併合」をテーマにして書いた新書には、山辺健太郎『日韓併合小史』(岩波新書、1966年)と海野福寿『韓国併合』(岩波新書、1995年)がある。「韓国併合」は、日本と朝鮮の近代史ど真ん中のテーマであるにもかかわらず、27年間、この題名の新書は更新されなかった。

 山辺健太郎『日韓併合小史』は、日韓国交正常化(1965年)の翌年に出版された。当時は日韓双方とも、朝鮮王朝以後の歴史はほとんど学ぶことができなかった。そのため、朝鮮王朝末期は「おくれたみじめな朝鮮」「取るに足らないつまらない時代」と解されるにとどまった。互いの近代史を十分に知らない状況で日韓基本条約が結ばれ、反発も大きかった。

 当時、北朝鮮は韓国よりも優勢だったこともあり、歴史研究も金日成(キム・イルソン)の提唱によって北朝鮮が先陣を切った。しかし、北朝鮮の歴史研究は朝鮮民族の主体性を強調し、北朝鮮の政治体制の正当性を証明する論理として位置づけられた。韓国は朴正熙(パク・チョンヒ)軍事政権下で自由な研究は難しく、史料集の出版(準備)にとどまった。他方、日本では国会図書館憲政資料室の史料や外務省記録などで朝鮮近代に関する史料が閲覧できるようになり、朝鮮史研究会も発足(1959年)して朝鮮史研究が活況を呈しはじめた。 

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