李登輝は台湾を民主化に導いた ©AFP=時事

 政治の本質とは何か――。ドイツの政治学者カール・シュミット(1888~1985)は、『政治的なものの概念』(岩波文庫)で、究極的な政治の姿を「味方か敵か」で捉える。道徳においては「善か悪か」、美的には「美か醜か」、経済においては「利か害か」が基準になるが、政治においては友敵関係が有用な基準になるというのである。シュミットはまた、『政治神学』(未來社)で「主権者とは例外状態において決定を下す者である」と定義する。権力の行使は最終的には法によってではなく、暴力的に強行されるものであるというのだ。政治の極限の姿を喝破したといえるが、今回取り上げる李登輝さんの思想と行動からは全く異なる政治の姿が見えてくる。

 私が今なお忘れられない光景がある。2007年6月1日、東京都港区の国際文化会館で、後藤新平の生誕150年を記念して設けられた「後藤新平賞」の第1回目の授賞式が行われた。受賞者は台湾の元総統、李登輝さん(1923~2020)。賞の選考委員の一人として授賞式に出席した私は、李登輝さんの受賞記念講演「後藤新平と私」を聴いたあと、選考委員会代表で評論家の粕谷一希さんや元財務相の塩川正十郎さんらと、李登輝さん、夫人の曾文恵さんと昼食を伴にしながら懇談した。

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