政治的なるものとは~思索のための1冊 (8)

権力とは「借りもの」である――李登輝『最高指導者の条件』(PHP研究所)

執筆者:橋本五郎 2023年2月5日
タグ: 台湾 日本
エリア: アジア
李登輝は台湾を民主化に導いた ©AFP=時事
台湾初の総統選挙を実施するなど「民主化の父」と呼ばれる李登輝は、敬虔なクリスチャンとしての信仰を大切にしつつ、生涯にわたって自身が「日本人の精神」を持つことを誇りとした。総統時代には身内への利益供与に走りがちな「アジア的価値観」と一線を画し、為政者が最も大切にするべきは「公義」であると訴えた。

 政治の本質とは何か――。ドイツの政治学者カール・シュミット(1888~1985)は、『政治的なものの概念』(岩波文庫)で、究極的な政治の姿を「味方か敵か」で捉える。道徳においては「善か悪か」、美的には「美か醜か」、経済においては「利か害か」が基準になるが、政治においては友敵関係が有用な基準になるというのである。シュミットはまた、『政治神学』(未來社)で「主権者とは例外状態において決定を下す者である」と定義する。権力の行使は最終的には法によってではなく、暴力的に強行されるものであるというのだ。政治の極限の姿を喝破したといえるが、今回取り上げる李登輝さんの思想と行動からは全く異なる政治の姿が見えてくる。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
橋本五郎(はしもとごろう) 『読売新聞』特別編集委員。1946年秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、読売新聞社に入社。論説委員、政治部長、編集局次長を歴任。2006年より現職。『読売新聞』紙上で「五郎ワールド」を連載するほか、20年以上にわたって書評委員を務める。日本テレビ『スッキリ』、読売テレビ『ウェークアップ!ぷらす』、『情報ライブミヤネ屋』ではレギュラーコメンテーターとして活躍中。2014年度日本記者クラブ賞を受賞。著書に『範は歴史にあり』(藤原書店)『「二回半」読む――書評の仕事1995-2011』(以上、藤原書店)『不滅の遠藤実』(共編、藤原書店)『総理の器量』『総理の覚悟』(以上、中公新書ラクレ)『一も人、二も人、三も人――心に響く51の言葉』(中央公論新社)『官房長官と幹事長――政権を支えた仕事師たちの才覚』(青春出版社)など多数。
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