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“国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではなく、あなたが国のために何を為すことができるのかを問うて欲しい。”

J.F.ケネディ1961年大統領就任演説

 

 泰然自若――。

 五年前、この部屋で、その書の迫力に圧倒されたのを、周防篤志[すおうあつし]は思い出した。

 彼は、上野の不忍池の畔にある「江島屋」の離れにいた。明治に創業した老舗料亭は、あの日と同じようにしんとしている。夏の始まりを歓ぶ蝉の声すら聞こえない。

「江島屋」は、元内閣総理大臣江島隆盛[えじまたかもり]の曾祖父が開いたもので、明治の元勲から歴代総理の多くが、この一室で国家の行く末を大いに語り合ったという。

 ここに、初めて江島に招かれたのは、彼が総理大臣を辞職した直後のことだった。

 天下国家を語る男達の気を吸い続けた部屋ともなれば、そこに漂う空気もただならぬ重さで、周防は息苦しさを覚えた。だが、渋い大島紬の和服を着た江島が姿を見せると、緊張感は消え失せた。いつもよりも明るく饒舌だった江島のおかげで、周防には一生忘れられない時間となった。

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