後継者に選んだイメルトの会長就任会見で質問に答えるウェルチ(左)。さほど時を置かずにウェルチはイメルトへの失望を口にするようになる[2000年11月27日、ニューヨーク](C)AFP=時事

 古今東西、ステークホルダー(株主や従業員、取引先など利害関係者)に莫大な富をもたらした名経営者は「神」と崇められ、周辺から生まれる数々の「神話」が公私に亘る彼らの疵を覆い隠してきた。ヘンリー・フォード(1863〜1947年)は熱烈な反ユダヤ主義者であったし、松下幸之助(1894〜1989年)の宗教紛いの企業統治は評論家の大宅壮一から「ナショナル教」と揶揄されたが、歴史上の人物となることによって、こうした過去の悪評は浄化されていった。

 ジャック・ウェルチ(1935〜2020年)を歴史上の人物と呼ぶには他界してまだ日が浅いかもしれない。1892年創業、発明王トマス・エジソン所縁の米ゼネラル・エレクトリック(GE)を復活・飛躍させた“中興の祖”であり、1999年に米経済誌フォーチュンが「20世紀最高の経営者」との栄誉を与えた。しかし、米国企業の代名詞でもあったそのGEはこの5年間で一気に凋落、会社は解体に追い込まれた。収益至上主義で黄金期を築いたウェルチの経営は“強欲資本主義”の典型とされ、今では高株価の代償として数十万人の雇用を蒸発させ「アメリカ企業社会の精神を破壊した張本人」といった汚名を着せられている(デービッド・ジェレス著「The Man Who Broke Capitalism〈資本主義を壊した男〉」2022年、邦訳未刊)。

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