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【前回まで】現場レベルの折衝でも、防衛省側は施設整備もミサイル防衛も全て必要不可欠だと譲らない。限られた予算の中で現実的な優先順位を求める周防たちとの溝は深かった。

 

Episode2 傘屋の小僧

 

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 半年ぶりに草刈摂子[くさかりせつこ]は、大手町にある暁光新聞本社に出社した。産休と育休明け初日だった。

 大理石の太い柱が並ぶ玄関フロアに入ると、産休前より古びたように感じた。

 活気がないからか。それとも、いよいよ社が傾き始めた影が、社屋にも及んでいるのだろうか。

 昭和から一度も入れ替えてないような旧式のエレベーターに乗り込む。昔はもっと照明が明るかった気がするのだが、今日は薄暗く感じた。

 5階で降りたところで、同期の記者と出くわした。

「おっ、草刈。久しぶり」

「ご無沙汰。相変わらず大活躍ね」

 クロスボーダー部という調査報道を行う花形部署に所属する彼は、同期の中では指折りの優秀な記者だ。つい先日も自衛隊機の墜落事故でスクープを飛ばしていた。

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