立ち退きを迫られる中、礼拝のためキーウ・ペチェルスク大修道院に集まった人々と司祭[2023年3月29日](C)EPA=時事

 ウクライナで信仰される主たる宗教はキリスト教であり、なかでも正教会が圧倒的多数となっている。キーウ国際社会学研究所(KIIS)による2022年7月の世論調査1によれば、ウクライナ人の宗教への帰属意識は、正教会が72%、無神論が10%、ギリシャ・カトリック教会が8%、プロテスタントが2%、その他のキリスト教宗派(「エホバの証人」などを含む)が2%、ローマ・カトリックが1%となっている。

 ウクライナにおける正教会は、一般に「ウクライナ正教会」と呼ばれる。しかしながら、2023年5月現在、「ウクライナ正教会」と呼ばれる教会組織には、キーウ府主教庁系のウクライナ正教会(以下、OCU)とモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(以下、UOC MP)という、二つの対立する「ウクライナ正教会」が存在する。今、ロシアのウクライナ侵攻が続く中で、「ウクライナ正教会」の扱いが大きく変化しつつある。

ウクライナにおける二つの正教会

 UOC MP(Ukrainian Orthodox Church of the Moscow Patriarchate)とは、その名の通りモスクワ総主教の管轄下にある正教会組織であり、ロシア正教会、そしてロシア国家との関係が深い。歴史的には、10世紀、ルーシの聖公ヴォロディミル(露:ウラジーミル)1世の洗礼以降、キーウの衰退とモスクワの伸長に伴ってルーシにおけるキリスト教の中心地がモスクワへと移りロシア正教会が勢力を増す中で、ウクライナの地の正教会もロシア正教会の傘下に組み込まれていったが、ウクライナの正教会組織でありながらそのままモスクワの権威を維持しているのがUOC MPである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。