古都コルカタにみるインドの「民主主義」

執筆者:竹田いさみ2009年6月号

 かつてカルカッタと呼ばれたコルカタは、インド東部のベンガル地方最大の都市で、町の歴史そのものがインドを物語る。ノーベル文学賞を受賞した詩人タゴールが、灼熱の太陽を避けて木陰で詩を詠んだ町であり、ノーベル平和賞を授かったアルバニア人修道女マザー・テレサが、末期癌の患者らに終の棲家を提供した町、またインド財閥のタタ自動車が超低価格車「ナノ」の生産から撤退した町――それがコルカタだ。 一千万人以上の人口を抱える古都は、壮絶な格差社会の代表例で、億万長者の豪奢な邸宅と道端に溢れる路上生活者の両極端な都市風景が混在する。下水道が整っておらず、スラムには鼻をつく異臭が漂う。強い太陽光線に晒された建物は劣化が進み、道を歩けばうつろな目をした物乞いの手がすっと伸びてくる。このようなインド社会の壮絶さを目の当たりにすれば、タゴールやマザー・テレサでなくても、人間社会のあり方を問い直さずにはいられないだろう。 コルカタをインド有数の都市に仕立て上げたのは、勇猛果敢なベンガル人を相手にインド統治に乗り出したイギリスだ。イギリスの貿易商人や投資家は、女王エリザベス一世から特許状を交付してもらい、一六〇〇年、東インド会社を設立。十七世紀末から十八世紀にかけて、海外拠点をコルカタに置く。以来、イギリスの東洋貿易をほぼ独占し、スパイスやアヘンの貿易で巨額の富を蓄積した。貿易会社として出発したにもかかわらず、最後はインドを支配する統治機構へと変貌を遂げていったこの東インド会社の盛衰を、コルカタは見届けてきた。町には歴史遺産として修復された東インド会社の建物が残っている。

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