80時間世界一周 (58)

古都コルカタにみるインドの「民主主義」

執筆者:竹田いさみ 2009年6月号
エリア: アジア

 かつてカルカッタと呼ばれたコルカタは、インド東部のベンガル地方最大の都市で、町の歴史そのものがインドを物語る。ノーベル文学賞を受賞した詩人タゴールが、灼熱の太陽を避けて木陰で詩を詠んだ町であり、ノーベル平和賞を授かったアルバニア人修道女マザー・テレサが、末期癌の患者らに終の棲家を提供した町、またインド財閥のタタ自動車が超低価格車「ナノ」の生産から撤退した町――それがコルカタだ。 一千万人以上の人口を抱える古都は、壮絶な格差社会の代表例で、億万長者の豪奢な邸宅と道端に溢れる路上生活者の両極端な都市風景が混在する。下水道が整っておらず、スラムには鼻をつく異臭が漂う。強い太陽光線に晒された建物は劣化が進み、道を歩けばうつろな目をした物乞いの手がすっと伸びてくる。このようなインド社会の壮絶さを目の当たりにすれば、タゴールやマザー・テレサでなくても、人間社会のあり方を問い直さずにはいられないだろう。

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執筆者プロフィール
竹田いさみ(たけだいさみ) 獨協大学外国語学部教授。1952年生れ。上智大学大学院国際関係論専攻修了。シドニー大学・ロンドン大学留学。Ph.D.(国際政治史)取得。著書に『移民・難民・援助の政治学』(勁草書房、アジア・太平洋賞受賞)、『物語 オーストラリアの歴史』(中公新書)、『国際テロネットワーク』(講談社現代新書)、『世界史をつくった海賊』(ちくま新書)、『世界を動かす海賊』(ちくま新書)など。
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