80時間世界一周 (78)

残された経済フロンティア「カンボジア」の活況

執筆者:竹田いさみ 2015年7月24日
エリア: アジア

 カンボジアの首都プノンペンの様子が、ここ5年間で一変した。国際空港や自動車道路が綺麗に整備され、高層オフィス・ビルの建設、仏系大型高級ホテル・ソフィテルの開業、日系の大型商業施設「イオンモール」の開店、マレーシア資本による新たな大型カジノ・ホテル「ナガ・ワールド」の再オープンと、実に景気がいい。

急ピッチのインフラ整備

 日本からのフライトはチャーター便を除き直行便がないため、バンコクを経由するのが一般的だが、最近はベトナムのホーチミン経由というルートも開拓されている。バンコクから約1時間のフライトで、プノンペンに到着。一昔前のプノンペンであれば、夕刻に到着する機内から市内を見ても、華やかな明るさとは無縁な世界であった。
 しかし機内から見える最近のプノンペンの夜景は違う。日没後にテニスやサッカーを楽しむ人口が増えたため、明るい夜間照明に囲まれた幾つものコートが目に飛び込んでくる。急速に中間層の人口が増えていることを示す現象だ。日本のグンゼは将来性を見込んで、2017年に海外初の直営フィットネスクラブを出店する予定だという。市内中心部にある高層ビルの大型液晶画面には、鮮やかな色彩の企業広告が躍り、東南アジアの経済フロンティアを実感する。夜間の街の明るさは、その経済発展の指標でもあろう。
 ミャンマー人気に押されて、ニュース報道では精彩を欠くカンボジアだが、この5年間に海外からの直接投資、投機マネー、製造業の進出などによって、経済は活況を呈している。カンボジアの国内総生産(GDP)成長率は6~7パーセント台で推移しており、高い経済成長を維持している。
 チャイナ+1の進出先として、タイ、ベトナム、インドネシアが注目されることはあっても、カンボジアが話題に上ることは少なかった。タイとベトナムに挟まれ、内戦の歴史が重くのしかかって、海に面していても内陸国のイメージが付きまとい、長らくカンボジアは海外の投資先リストから外されてきた。
 しかしフン・セン首相の長期政権で政治は安定し、治安も改善され、急ピッチで経済インフラや工業団地が整備された。優遇税制によって海外企業を取り込むことにも成功するなど、カンボジアは何を隠そう、東南アジアの立派な優等生なのである。
 歴史的にも親日国であるため、日系企業が中国で経験したような反日暴動や反日デモは皆無で、安心して操業ができる。労働集約型の企業にとっては労働賃金の水準が最大の課題だが、とにかく東南アジアで最低レベルだ。しかも初等中等教育が進んだため、労働集約型産業に適した人材を確保できる強みがある。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
竹田いさみ(たけだいさみ) 獨協大学外国語学部教授。1952年生れ。上智大学大学院国際関係論専攻修了。シドニー大学・ロンドン大学留学。Ph.D.(国際政治史)取得。著書に『移民・難民・援助の政治学』(勁草書房、アジア・太平洋賞受賞)、『物語 オーストラリアの歴史』(中公新書)、『国際テロネットワーク』(講談社現代新書)、『世界史をつくった海賊』(ちくま新書)、『世界を動かす海賊』(ちくま新書)など。
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