中国「地域覇権獲得」の成功率

Foresight World Watcher's 3Tips

執筆者:フォーサイト編集部2023年6月9日
アジアでの地域覇権獲得を強引に進めれば中国も無傷では済まない (C)EPA=時事

 

 今週もお疲れ様でした。米国のアントニー・ブリンケン国務長官が近く訪中する可能性が報じられました。米中が関係打開を模索する中、米FP誌とFA誌は、米中の対立を強調しすぎることを警戒する論稿を相次いで掲載。フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事3本、皆様もよろしければご一緒に。

Stop Worrying About Chinese Hegemony in Asia【Stephen M. Walt/Foreign Policy/5月30日付】

 米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌のコラムニストで同ハーバード大教授のスティーブン・M・ウォルトは5月31日付でFP誌サイトに「アジアにおける中国の覇権について心配するのはやめよう」を寄せ、アジア地域で強権的にヘゲモニーを握ろうとする取り組みは中国にとって合理的ではないと指摘している。

「中国が積極的にアジア地域の覇権を握ろうとし、米国がそれを阻止しようとすれば、この2大大国間の直接的な衝突を避けることは難しいだろう。[中略]中国が米国をアジアから駆逐し、真の地域覇権国家になれるのであればまだいいが、この目標はおそらく達成不可能だ。地域覇権を目指す中国の賭けは失敗する可能性が高く、その過程で中国(および他国)に多大な損害を与えることになる。したがって米国は、相対的に楽観的な見方をとることができる」
「地域覇権は[中略]歴史的に見ると、到達することのできないゴールだ。[中略]フランスはルイ14世とナポレオン・ボナパルトの時代に失敗し、ドイツは両大戦で決定的な敗北を喫し、日本はアジアで覇権秩序を確立しようとしたが、これも完敗に終わった。地域で唯一の大国になれたのは米国だけ。つまり、近現代の世界における[地域覇権実現の]成功率は20%以下だ」
「しかも、こうした国々にとって失敗は、些細な後退ではなく大惨事となった。ナポレオン戦争では100万人ものフランス人が命を落とし、ボナパルトは流刑先の南大西洋の孤島で死んだ。ドイツは両大戦で甚大な被害を受け、40年以上にわたって別々の国家に分割された。日本は第2次世界大戦で空襲を受け、原爆で2都市を破壊されて、海外の占領者によって政治秩序を作り直された。[中略]地域の覇権を握ろうとすると、ほとんどの場合、国家の安全性は高まるどころか、むしろ低下する」

 地域での覇権を目指す国が失敗する理由としてウォルトは、周辺国が結束して対抗すること、圧迫された周辺国の国民の間にナショナリズムが高揚することの2点を挙げ、米国のみが、この2点とは無縁で、かつ、他の大国から海洋で遠く隔てられているという「幸運に恵まれた」のだと言う。

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