2017年の来日時、ルクセンブルクのアンリ大公とアレクサンドラ王女は天皇皇后両陛下(当時)とともに宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センター展示館を見学 右端は宇宙飛行士の若田光一さん (C)時事

 

 ルクセンブルクというヨーロッパの小国が一人あたりのGDP(国内総生産)で世界一であるという事実は比較的よく知られていると思うが、日本との二国間関係においては、両国の天皇家と大公家が友好関係にあるということ以外、あまり馴染みのある国とは言えないだろう。しかし、ルクセンブルクの戦略的価値を知ることは、日本の安全保障戦略を考察する上で示唆に富んでいる。

 以下では、まず地政学的背景からルクセンブルクを紹介し、陸海空という伝統的な戦闘領域からの視点、そして宇宙・サイバー空間を含む総合的戦闘領域からの視点で同国を分析する。ルクセンブルク–米国の二国間軍事協力の進展に焦点を当て、最後に日本の外交力の弱点とチャンスを検討する。

ルクセンブルクの地政学的背景

 神奈川県とほぼ同じ大きさのルクセンブルクは、ドイツの重工業地帯ルール地方のすぐ南に位置する。世界最大級の鉄鋼メーカー、アルセロール・ミッタルの本拠地はルクセンブルクであり、鉄鋼業中心の産業構造がこの国のバックボーンである。第二次世界大戦後、ドイツ・ルール地方の重工業を多国間で管理するために欧州石炭鉄鋼共同体が設立されたが、ルクセンブルクはその堂々たる原加盟国である。この共同体が紆余曲折を経て、現在の欧州連合になったことは周知の通りだ。

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