非国家主体から国家主体へ

執筆者:池内恵2023年7月22日

 中東で生じている大きな変化を、これから折に触れ、抽象化して記していきたい。

 見るべき重要なポイントは、中東地域の政治・国際関係の基調が「非国家主体から国家主体へ」と転じたという点だろう。

 2001年の9・11事件以後、イラク戦争後の混乱を経て、「アラブの春」の動揺とそれに伴い発生してきた諸事象、その代表例は「イスラーム国」だろうが、それらはいずれも「非国家主体」が主導する事象だった。米国の「対テロ戦争」は国家ではなく非国家主体に対して行われたものであり、イラク戦争もフセイン政権という国家主体を倒すことは容易でありながら、宗教規範や宗派コミュニティの結束や血縁の絆でまとまる部族により長期間にわたって苦しめられた。

 そのような「非国家主体」が主導していた中東政治から、トルコ、イラン、サウジアラビア、イスラエルなどの、相対的に国家機構が安定して存在し、主権を確立した地域大国・強国が生き残り、抜きん出て、米国の関与が弱まる中で主導権を発揮しているのが現状だろう。これをどう認識し、関与するか。

 これが日本にとっての課題である。米国への協力を通じた中東関与という日本の従来の中東関与のモードが、米国の関心の低下(それはアジアへの関心の移行であるが故に日本にとってはプラスではあるが)によって、適切で十分なものとなりにくくなっている今、どの国とどのように結ぶことで日本が自らの国益をどのように確保していくか、自ら知恵を絞り、手を動かさなければならない。

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