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【前回まで】周防は5年前に急逝した作家・桃地実の自宅を訪ねた。そこにいたのは「オペレーションZ」の同志だった中小路流美と、なぜか海自の樋口梓二佐。梓は桃地の孫だった。

 

Episode3 リヴァイアサン

 

「隠した訳ではないのですが、かといってああいう場で、祖父の話をするのも憚られまして」

「樋口さん、お気遣いなく。世間は狭いと驚いただけですから。でも、桃地先生に、自衛隊幹部のお孫さんがいらっしゃったのが意外で」

 学徒出陣し、九死に一生を得たという桃地は、徹底した平和主義者で、憲法九条を守る運動にも熱心だった。

 また、反戦、平和維持をテーマにした小説も多い。冷戦時代の米ソ対立の結果、核戦争が起きて地球が瀕死の状況に陥った中、平和を求めて人々が立ち上がる『サイロ』は、映画化もされている。

「梓は、桃地家の跳ねっ返りなんです。両親は、理系の研究者で、自衛隊とはまったく無縁だったのに、大学進学時に『防衛大を受験する』と宣言して、周囲を驚かせました」

 トキ子が嬉しそうに話す隣で、樋口が照れている。毅然としたいつもの彼女とは、まるで別人だった。

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