『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』(原題:The Killing of Kenneth Chamberlain)は、実際の事件をほぼリアルタイム進行で再現した (C)2020 KC Productions, LLC. All Rights Reserved

キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』(以下、『キリング』とする)は2011年11月19日の早朝、ニューヨーク市北部のホワイト・プレーンズで実際に起きた警察官による黒人男性ケネス・チェンバレンの殺害事件の一部始終を、ほぼリアルタイムで描いた作品である。映画の冒頭、事件の発端となる医療用通報装置の誤作動が描かれるよりも前に、次の文章が画面に示される。

警察官の姿を見て、安心や安全という温かい感覚を抱くか、恐怖のどん底に突き落とされる感覚を抱くかは、あなたが何者であるかによる1

 ジャーナリストのクリス・ヘイズによる2017年の著書『国家のなかの植民地』[A Colony in a Nation]からの引用である。白人のストレートであるヘイズは、この一節の直後に自身が後者の感覚を経験したエピソードを披露し、警察官に対する2つの相反する感覚は本来的には人種化されたものではないことを示しながら、アメリカ社会においては実質的には人種化されており、とくに後者の感覚がアメリカの黒人にとっては単なる妄想ではないことをあきらかにしていく。よって、『キリング』の作り手が映画の冒頭でこの一節を引用したねらいは明白である。「ケネス・チェンバレンがもし白人であったならこんなことになっていただろうか」と自問しながら、息詰まる83分の映画を注視するよう観客にうながすためだ。

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