看板の特徴ある文字は、安倍氏が重用していた稲田氏による揮毫[左から加藤勝信内閣人事局長、稲田朋美内閣人事局担当大臣、安倍晋三首相、菅義偉官房長官(肩書はいずれも当時)=2014年5月30日、内閣人事局発足式にて](C)時事

 政治家と官僚の関係はどうあるべきか。大平正芳元首相に「大臣と役人」という印象深い文章がある。『大平正芳全著作集2』(講談社)に収録されている。少し長くなるが、その大意をご紹介しよう。

 大臣は役所の主人公たる虚名をもってはいるが、事実はその役所の仮客にすぎない。仮客である以上は、物判りのよい大臣として、役人衆に親しまれたくなるに決まっている。そういう立場とメンタリティをもった大臣に、大きな改革を求めるのは、求める方が無理である。はじめのうちは、政治家らしい改革意図を失わないつもりで気負っていても、やがて彼は身心ともにその役所のミイラになってしまう。自分の名誉と生涯の運命を賭けた役所の存亡に、役人衆が無関心であるはずがない。私の大臣に対する提言はこうである。もともと公務員制度や行政機構にまつわる大きい改革意図などはお持ちにならない方が無難である。改革意図を振り回すなどということはなおさら危険である。

 昭和31年(1956)に書かれたものだが、大平の生涯変わらぬ政治哲学だった。大上段に「大義」や「原則」を掲げ、進軍ラッパを奏でて突き進むのではなく、人間には限界があることをよく自覚して、常に「韜晦」の気持ちで政治に臨んでいた大平らしい。いささかシニカルな表現ではあるが、そこには「諦観」さえ漂っている。

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