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【前回まで】衝突事故を起こした台湾海軍の潜水艦を「保護」したのは中国軍だった。開戦さえ案じられる危機に際して、日米の連携は拙く、防衛大臣は暴走し、官邸は沈黙していた。

 

Episode4 カナリア

 

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 久しぶりに「あの夢」を見た。

 全身が汗だくだ。周防は、妻を起こさぬようにベッドから抜け出て着替えた。

 夢の舞台は東京大空襲だ。もちろん周防自身は知らないが、祖父から聞いた話が強烈すぎたのだ。祖父は、戦時中、都内で国民学校初等科の教諭をしていた。

 そして、1945年3月10日、東京大空襲に遭遇、爆撃を避けようと小学校に集まった学童たちと共に恐怖の一夜を体験した。

 戦後、故郷の北海道富良野に戻った祖父は、周防ら孫たちが夏休みに遊びに行くたびに、その日の話をした。

 目の前で人の背中に焼夷弾が刺さるのを見た話や、衣服が燃えて火ダルマになり、川に飛び込んだ子どもの話などは、怪談話より何倍も怖かった。

 祖父は、焼夷弾の火を「劫火[ごうか]」と呼んだ。

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