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【前回まで】早朝の総理会見は、中国軍の行動に何も触れなかった。仮眠から戻った防衛省の磯部は、樋口二佐に別室に誘われる。そこで統幕の井端から、ある提案を持ちかけられる。

 

Episode4 カナリア

 

11(承前)

「大臣は、官房長と出て行ったまま、行方知れずです。ところで、お呼びしたのは、別にご相談があるからです。

 磯部さん、昨夜の一件で、我が国の危機管理のまずさが露呈しました。

 官邸、大臣、統幕、米軍、すべてがバラバラで、現場は大混乱しています。こんな状態が続けば、いずれ『事故』が起きかねません。昨夜は、我々のトップたちは、よく我慢されたと思います。しかし、政治の後ろ盾のない判断には、限界があります」

 対馬沖の事故が発生してから、自衛隊に対して、官邸から明確な指示は、ほとんど出なかったらしい。

 とにかく穏便に、戦争の火種をつくらないようにということにだけ専心する官邸。それに対して、防衛出動を繰り返し主張する防衛大臣という構図は、まるで笑えないコメディだった。

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