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【前回まで】台湾の潜水艦事故当日。北京を訪れた都倉は、恩師を偲ぶ会の最中に、旧知の華首相に別室に呼ばれた。日中の平和維持で合意した二人だが、そこに事故の一報が入る。

 

Episode5 四面楚歌

 

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 幹事がマイクを手にした。ようやく閉会の時間になったようだ。

「最後に、我らの同窓であり、恩先生の愛弟子である華希宝首相から、ご挨拶を賜ります」

 華は、恩師との出会い、そして、共に学んだ同窓との貴重な時間を懐かしんでから、予断を許さぬ時勢を乗り越えるために、今こそ恩師の教えが重要だと訴えた。

「時に厳しく、時に慈愛に満ちた恩先生は、かつて、こうおっしゃいました。

 もし、我が中国が眠れる獅子ならば、我々は目覚めてはならない。なぜならば、獅子が目覚める時は、暴力が言葉を、軍事力が政治を、凌駕する時だからだ。我々学究の徒は、いついかなる時も政治に中立であり、平和を希求する姿勢を忘れてはならない――と。

 先生のご冥福を祈りながら、その教えを改めて心に刻もうではありませんか」

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