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【前回まで】都倉と野添を乗せた車は、政府中枢のある中南海へ。その一室で、華首相が「台湾の潜水艦は返還してもいい」と提案した。条件は日中安全保障条約締結への協力――。

 

Episode5 四面楚歌

 

6(承前)

 大学時代、華は「ひらめきの天才」とも言われていた。

 到底、思いつきとは思えないような戦略を、不意に考えつくのだ。しかも、実現性が高いものだった。

 その才能故に、彼は若くして首相にまで上り詰めたのだろう。

「そんな悪だくみを、思いつきで、考えられるなんて、さすがです」

「少しだけ補足すると、中日安全保障条約については、僕のライフワークの一つでね。君が、恩先生を偲ぶ会に出席すると聞いた時から、持ちかけるつもりだった。ところが、そこに思わぬ幸運が巡ってきた」

 事故を「幸運」と呼ぶあたりは、中国の傲慢な権力者の片鱗が覗いた。

「だから、有効活用しようと?」

「その通り。響子、悪い話ではないだろう」

 日本の政界は、こういうスタンドプレイを、極端に嫌う。そうでなくても、時に政権とは異なる持論を公にする都倉の行動を警戒する敵が大勢いる。

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