「戦略的互恵関係」は、近年の日中関係を説明する重要な概念であったと同時に、一時的に「忘却された」概念でもあった[APEC首脳会議に出席した習近平中国国家主席=2023年11月17日、アメリカ・サンフランシスコ]

 中国は国際秩序の変動を牽引している主要なアクターである。急速な経済成長にともなう中国の国力の増大は、国際社会における力の分布に変化を生み、国際政治の力学に大きな影響をあたえている。

 国際社会が共有してきた価値と利益に対する認識は流動し、国際関係をかたちづくる制度や規範といったゲームのルールは動揺している。日本は、既存の国際秩序のなかで平和と繁栄を享受してきた。そうであるがゆえに日本は、この秩序の変動を感度良く捉え、冷静な現状分析が必要である。

「状況をつくりだす国家」中国

 中国が国際政治の力学の変化を牽引してきたことは、習近平指導部の自己認識の変化を促している。現指導部は、自らの外交を「中国の特色のある大国外交(「大国」外交)」と呼び、「中国は世界の中心に躍り出ようとしている」という認識を持つに至っている。

 2012年2月、当時、まだ国家副主席だった習近平氏は、米国紙の書面インタビューで「広大な太平洋両岸には中米両大国を受け入れる十分な空間がある」と語っていた。それから、およそ10年を経て、習氏は中国をより大きな存在として捉えている。2021年11月、ジョー・バイデン大統領との会談で習氏は、「地球は中米それぞれが共同の発展を受け入れるだけの十分な広さがある」と発言し、地球大のなかで中米両国を捉えていた。習氏の言葉のなかで、中米関係は「太平洋のなかの中米」から「地球のなかの中米」へと発展していた。

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