走れ台湾

執筆者:阿川佐和子2024年3月10日
あつあつの小籠包を食べに日帰り台湾!?(写真はイメージです)

 台湾へ行った。なんと0泊の旅である。「0泊でも行ける海外旅行」というテレビ番組の依頼につい乗ってしまった。古稀にしてそれは無謀ではないかという声もあったが、考えてみれば片道四時間ほどの距離である。日帰りが不可能なわけではない。

 心の片隅で、「大丈夫か?」と囁く声も聞こえたが、そもそも私は「台湾」という響きに弱い。「台湾……」と呟くだけで、お腹が鳴る。胃腸が動き出す。妄想の中華風香辛料が鼻をくすぐる。目を閉じると、あの饅頭、このスープ、その豆乳の湯気が瞼の裏に立ちのぼる。

 「よし、行きます!」

 とはいえ、企画者側は、限られた時間内にレポーターである私をあちらこちらに連れ回したいらしい。事前の打ち合わせにて、いくつも写真を提示された。

 「こんなお洒落な水族館があるらしいです。行ってみませんか?」

 「はあ、そうねえ」

 「今、台湾で大人気の幻想的な絶景スポットはいかがですか?」

 「ふうーん」

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