台湾へ行った。なんと0泊の旅である。「0泊でも行ける海外旅行」というテレビ番組の依頼につい乗ってしまった。古稀にしてそれは無謀ではないかという声もあったが、考えてみれば片道四時間ほどの距離である。日帰りが不可能なわけではない。
心の片隅で、「大丈夫か?」と囁く声も聞こえたが、そもそも私は「台湾」という響きに弱い。「台湾……」と呟くだけで、お腹が鳴る。胃腸が動き出す。妄想の中華風香辛料が鼻をくすぐる。目を閉じると、あの饅頭、このスープ、その豆乳の湯気が瞼の裏に立ちのぼる。
「よし、行きます!」
とはいえ、企画者側は、限られた時間内にレポーターである私をあちらこちらに連れ回したいらしい。事前の打ち合わせにて、いくつも写真を提示された。
「こんなお洒落な水族館があるらしいです。行ってみませんか?」
「はあ、そうねえ」
「今、台湾で大人気の幻想的な絶景スポットはいかがですか?」
「ふうーん」
「占いには興味ありますか?」
「ないわけではないけれど……」
あれこれ提案してくださるが、あまり乗り気になれない。興味はただ一つ。台湾へ行ったら、おいしいものを食べたいのだ!
そんな私のわがままを番組側は最終的に受け入れてくださった。
「わかりました。食べまくりましょう!」
かくして出発当日は、朝の三時に起床。四時に自宅を出て羽田空港へ向かい、六時前の飛行機に乗って四時間後、現地時間の午前九時(台湾と日本の間には一時間の時差がある)には桃園国際空港に到着した。
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