やっぱり残るは食欲 (20)

走れ台湾

執筆者:阿川佐和子 2024年3月10日
カテゴリ: カルチャー
エリア: アジア
あつあつの小籠包を食べに日帰り台湾!?(写真はイメージです)

 台湾へ行った。なんと0泊の旅である。「0泊でも行ける海外旅行」というテレビ番組の依頼につい乗ってしまった。古稀にしてそれは無謀ではないかという声もあったが、考えてみれば片道四時間ほどの距離である。日帰りが不可能なわけではない。

 心の片隅で、「大丈夫か?」と囁く声も聞こえたが、そもそも私は「台湾」という響きに弱い。「台湾……」と呟くだけで、お腹が鳴る。胃腸が動き出す。妄想の中華風香辛料が鼻をくすぐる。目を閉じると、あの饅頭、このスープ、その豆乳の湯気が瞼の裏に立ちのぼる。

 「よし、行きます!」

 とはいえ、企画者側は、限られた時間内にレポーターである私をあちらこちらに連れ回したいらしい。事前の打ち合わせにて、いくつも写真を提示された。

 「こんなお洒落な水族館があるらしいです。行ってみませんか?」

 「はあ、そうねえ」

 「今、台湾で大人気の幻想的な絶景スポットはいかがですか?」

 「ふうーん」

 「占いには興味ありますか?」

 「ないわけではないけれど……」

 あれこれ提案してくださるが、あまり乗り気になれない。興味はただ一つ。台湾へ行ったら、おいしいものを食べたいのだ!

 そんな私のわがままを番組側は最終的に受け入れてくださった。

 「わかりました。食べまくりましょう!」

 かくして出発当日は、朝の三時に起床。四時に自宅を出て羽田空港へ向かい、六時前の飛行機に乗って四時間後、現地時間の午前九時(台湾と日本の間には一時間の時差がある)には桃園国際空港に到着した。

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執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』(新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
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