大統領選圧勝でも消えない「プーチン影武者説」 背後で囁かれる2つの謀略

IN-DEPTH【ニュースの深層】

執筆者:古本朗 2024年4月10日
エリア: ヨーロッパ
公の場に姿を現しているにもかかわらず“プーチン死亡説”を喧伝し続ける勢力の意図とは――?[独立労働組合の大会で演説するプーチン大統領=2024年4月4日、モスクワ](C)EPA=時事
プーチンは2023年10月に死亡し、今年3月の大統領選で5選を果たしたのは影武者である――。そんな真偽不明の情報を発信し続ける勢力がロシア国内に存在する。荒唐無稽な言説を知識人が完全には無視できない背景に、かつて偽皇帝が現れて国が乱れたというロシア社会の歴史的トラウマがある。“死亡説”の発信者の一人は政権内に後ろ盾がいると公言しているため、クレムリンによる計略説が囁かれるが、逆に反プーチン勢力による謀略との見方もある。

 3月のロシア大統領選で5選を決めたウラジーミル・プーチン氏(71)が独裁体制の強固さを印象付ける一方、実は、大統領は昨秋に死去しており、側近陣の企みで大統領の影武者が本物になりすまし国民を欺いている――との前提に立つSNSメディア情報が執拗に流れ続け、主に知識層に困惑を広げている。奇怪なのは、“プーチン死後の世界”を現実として喧伝する発信が政権から弾圧されることもなく行われ、その背後に有力な黒幕の存在がチラつくことだ。帝位継承者などを騙る「僭称者」が頻出した伝統を持つ露社会の歴史トラウマを逆手に取った、反プーチン派の謀略であるとの疑いさえ囁かれる。

パトルシェフ一派と軍産複合体巨頭の権力闘争を主張

 “プーチン死後の世界”の到来を喧伝する発信源は、露対外情報庁(SVR)の高官OBが主宰するという触れ込みのSNSメディア「SVR将軍」と、クレムリン内の権力集団の後ろ盾を持つと公言する政治学者ワレリー・ソロヴェイ博士。SVR将軍もソロヴェイ博士も、特に、昨年10月末、プーチン大統領が末期ガンなどの闘病の末に死去した、との情報を発信したため、欧米日を含む世界各国のメディアからの注目度が高まった。

 プーチン死亡情報以降も、政権ナンバー2であるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記(72)らプーチン側近の意向により「ベラルーシ出身の大工で海兵隊の軍歴を持つ影武者」が整形手術を受け大統領の代役を演じている、との設定で、“プーチン死後のクレムリンの内情”などに関する発信を日常的に続けている。例えば、3月18日配信の「SVR将軍」は、同月15~17日投票の大統領選で圧勝したのは「プーチンと称される某人物」つまり影武者であり、「偽大統領選の終了は、ロシア権力機構の深刻な危機の始まりに過ぎない」と、“プーチン死後”の真の権力をめぐるクレムリン派閥抗争の激化を予測した。

 他方、ソロヴェイ博士は4月1日の動画発信で、“プーチン死後”の「2024年の権力闘争の主軸は、自分の息子を後継大統領に強く推すパトルシェフ一派と、これに断固反対する対抗派閥の正面衝突だ」と解説している。

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カテゴリ: 政治 社会
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執筆者プロフィール
古本朗(こもとあきら) こもと あきら ジャーナリスト。『読売新聞』ニューヨーク特派員、モスクワ支局長、国際部長、取締役等を歴任。
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