
「政界の岸田(文雄首相)か、小売の井阪(隆一セブン&アイ・ホールディングス社長)か」。4月10日、都内で開かれたセブン&アイの決算発表を聞いていた金融関係者とおぼしき2人が会見終了後、会場の出口で囁き合っていた。仕事をやっているように見えても、それは周囲に理解できないということだろうか。
岸田首相については贅言を要しないが、井阪社長はどうだろう。昨年、傘下の百貨店、そごう・西武の売却を巡る迷走ぶりは記憶に新しい。2016年春、社外取締役からの強烈な後押しを得て事実上のクーデターでグループの総帥・鈴木敏文氏を放逐した。その恩のある社外取締役たち――筆頭格はガバナンスの大家である伊藤邦雄氏(一橋大学名誉教授、23年5月に社外取締役退任)だが――のアドバイスを受けて株主との対話に力を入れたのはいいが、皮肉にもモノ言う株主から揺さぶりをかけられることになった。
10日の決算会見で、井阪氏は祖業であるイトーヨーカ堂の新規株式公開(IPO)を検討すると表明した。スーパー、コンビニ、専門店、百貨店など多業態で構成されてきたセブン&アイグループには、国内外のコンビニに注力する方向性が打ち出された。モノ言う株主が要求してきた方向に舵を切った格好だが、ここまでの経緯(特にヨーカドー再建の経緯)は、まさに迷走の一語に尽きる。
業態特化を唱えて20年に分社化した食品スーパー事業を、約3年で再びヨーカ堂に吸収。そして現在では「イトーヨーカドー食品館」と名付けた都市型小型食品スーパーの閉店が相次いでいる。ヨーカ堂はセブン-イレブン・ジャパンと連携して食の強化を図る重要ドメインだとする、この数年来の井阪氏の主張にはこのことだけでも疑問符がつくが、今度はIPOで新たなステークホルダーを募るのだという。「(ヨーカ堂を)取り込みたいのか手放したいのか、真意がわからない」とアナリストたちは首をかしげる。……

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