西武・そごう売却「二度目の延期」 「1円買収」説も囁かれるセブン&アイ迷走の舞台裏

IN-DEPTH【ニュースの深層】

2023年4月3日
タグ: マネジメント
エリア: アジア
豊島区長選挙の投開票日は4月23日。売却に強く反対した高野前区長の後任者の判断は? (C)新潮社
「3月中」とされた売却はやはり実現しなかった。そごう・西武の企業価値は一人歩きする数字よりかなり低いと指摘される傍らで、セブン&アイの株式4%強を保有する米ファンド、バリューアクトは「企業戦略の失敗」を追及。井坂社長、後藤副社長ら取締役4人の再任に反対するなど、もはやセブン&アイの当事者能力は限界に?

 3月29日午後7時前。東京都の豊島区役所。終業時間を過ぎ少ない職員たちの間にある情報が駆け巡った。「やはり延期のようだ」「そりゃそうだろう。数カ月はかかるのではないか」。ネットニュースに「そごう・西武の売却時期 再延期」が流れたときのことだ。

 セブン&アイ・ホールディングスによるそごう・西武の売却が迷走しているのは周知の通り。本来なら2月1日に、譲渡契約を結んでいる米ファンドのフォートレス・インベストメント・グループと家電量販店ヨドバシホールディングスに売却が実行されることになっていた。

 それでも関係者との調整はつかなかった模様で、30日午後、セブン&アイは売却時期を再び延期することを正式に発表。新たな売却の実行日は示されていない。

新たな豊島区長は故・高野氏の遺志を継ぐか

 旗艦店、西武池袋本店のお膝元の豊島区。高野之夫区長(当時)は昨年12月、ヨドバシカメラの西武池袋への出店で「文化のまちの土壌が喪失してしまう」と売却交渉に猛烈に反発した。同店の所有権の一部を持つ西武ホールディングスの後藤高志社長(現会長)は、売却交渉の進め方について地域との協議が不十分だと不満を漏らしていた。

 売却の延期報道を知った30代後半の職員は「新区長が決まらないと、何も進まない」と語った。というのは、高野氏が怒りの拳を振り上げたまま2月上旬に急逝し、遺志を継ぐかどうかは新区長の判断に委ねられているからだ。その人物を選ぶ区長選挙の投開票日は4月23日、3月末現在で5人が出馬を表明している。

 各人ともヨドバシ出店について明確な判断を明らかにしていない模様だが、ある関係者は「高野氏から生前に後継指名を受けた候補予定者(前副区長の高際みゆき氏)は反対派に違いないが、他の4人も反対に傾いているはず。区長空白の今、売却を強行することはないだろう。そんなことをしたら今後の区との関係が決定的に悪化する」と見立てる。

 こうして約束の「3月中」は延期に至るが、その期日が近づくなか、セブン&アイ関係者の間で一つの数字がクローズアップされた。「1円」――そごう・西武株の譲渡金額が「1円になるのではないか」とささやかれたのだ。M&Aビジネスにおける、いわゆる「1円買収」である。

「企業価値2500億円は安すぎる」と係争が続くが……

「1円買収」は、買収される企業が極度の業績不振で債務超過状態にあるケースが多い。一般的に企業価値には有利子負債も含まれるので、債務超過なら価格を付けられないが、買う側はもちろん後のビジネスに勝算があるから買収する。その際、備忘価格として「1円」が計上される。

 そごう・西武の資産価格は、目下、この売却劇の大きな焦点になっている。

 2月末、そごう・西武の元社員と労働組合員の二人が、セブン&アイ株主の立場で、東京地裁に売却差し止めの仮処分申請を申し立てた。「企業価値を下回る価格での売却によって、雇用喪失や企業の信用低下といった損害がセブン&アイに生じる」というのが申請の理由だ。その後、地裁は訴えを却下。原告側は即時抗告した。原告はそごう・西武の企業価値は不動産だけで3857億円あるとしている。

 この訴えとは別に3月30日午前、やはりそごう・西武の元従業員が、セブン&アイ監査役に対し「売却によって1300億円以上の損害が出る」として、井阪隆一セブン&アイ社長を含む14人の取締役全員に賠償を求める株主代表訴訟の準備を進めていることを明らかにした。

 こうした係争の背景に浮かび上がってくるのは、セブン&アイがそごう・西武の企業価値として示してきた「2500億円」という数字である。昨年11月にフォートレス・ヨドバシ企業連合へのそごう・西武売却を発表した際のリリースでは、企業価値は2500億円とされている。この金額で売却するのは“叩き売り”になってしまうと、二つの原告は訴えているのだ。

 だが、上述の「1円買収」観測は、叩き売りどころかこの「2500億円」でも“高すぎる”可能性を示唆している。正式な株式譲渡後でなければそのスキームは明らかにはならないが、そごう・西武には到底受け入れがたい話だろう。

 そして実際のところ、関係者への取材を総合すると、セブン&アイは以下のような売却スキームを目論んできたと考えられる。……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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