「10月7日」から8カ月が経った中東をめぐる国際政治において、それ以前と異なるのは、かつて「パレスチナ問題」とされていたものが影を潜め、代わりに「イスラエル問題」として、国際政治の課題の一つとして急浮上してしまっているということである。

 なぜそのようなことが起こったのか。

 根本的には、イスラエルがパレスチナに対して、他のアラブ諸国に対して、そして他の中東諸国に対して、圧倒的に有利な立場を固めたことに起因する。イスラエルは超大国米国の一方的な支持という政治・外交資源を背景に、他の中東諸国を圧する技術力・情報力・諜報力を備え、他の中東諸国の対抗を許さない圧倒的な軍事的優勢を確保した。イスラエルの存在を軍事的に脅かしうる「存在に対する脅威(existencial threat)」は、イスラエルの近隣諸国の中に見当たらない。

 そもそも中東諸国が国家としてイスラエルに戦争を挑む事例は、1973年の第四次中東戦争におけるエジプト・シリアを最後に跡を絶っている。イスラエルと米国の支配への「抵抗」を叫ぶイランと、その影響下にあるヒズブッラーのような非国家主体にしても、イスラエルとの全面的な軍事衝突を避けるために細心の注意を払っており、ハマースのイスラエルへの越境攻撃に呼応してイスラエルに攻め込んでパレスチナを解放するなどという姿勢は見せていない。

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