退職者に同業他社への就職を禁ずる条項は、社会全体の生産性向上という観点からその正当性が疑問視されている(C)theghan//stock.adobe.com

 本年4月23日、米国の独占禁止当局である連邦取引委員会(以下「FTC」という)は、競合他社への転職禁止を定めた既存並びに新規の条項(non-compete clause、競業避止条項)を違法、禁止とする最終規則を公表した。

 競業避止条項とは、企業が労働者に対して退職後の一定期間、同業他社への転職を制限する契約条項を言う。この条項は職業選択の自由の制限となる反面、企業の機密情報を守る必要性から、欧米でも日本でも広く用いられてきた。

570頁で理論武装したリナ・カーン委員長

 FTCを3年前から率いるのは、当時32歳の史上最年少でコロンビアロースクール准教授から委員長に就任したリナ・カーン氏である。アマゾンやグーグルなど、ネット検索サービスやデジタル広告分野で大きなシェアを占めるメガテックに対して厳しい姿勢で知られる。

 リナ・カーンのFTCはここまでもっぱら、IT業界におけるメガテックの寡占状態がもたらす競争制限効果に関心を集中してきたかに見えたが、競業避止条項撤廃についても実に570頁にわたる詳細な分析報告書を公表している。まさにEBPM(Evidence Based Policy Making=証拠に基づく政策立案)の模範を示しており、反論は容易ではない。
具体的にFTCは条項廃止の効果として、毎年8500件の新規創業と1万7000から2万9000の特許を生み出し、労働者の所得は平均524ドル上昇するなど、米国の産業競争力強化を見込めるとしている。

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