「均衡」は、狭義の戦場における軍事力だけでなく、継続的な経済損益や兵器の生産・運営能力など、軍事力を下支えする諸条件も含めて計算される[敵の電子戦装置に検知されない光ファイバー制御ドローンをテストするウクライナの兵士=2025年1月29日、ウクライナ・キエフ近郊](C)EPA=時事

 本稿の前半で論じたように、領土問題の解決は、戦争状態の消滅としての「和平合意」のレベルの問題である。キッシンジャーは、その達成については、著しく悲観的である。両当事者が合意する領土問題の解決は容易には果たせないと考えているがゆえに、むしろキッシンジャーは領土の割譲をウクライナに迫ることもしないのである。

 安易な領土割譲の押し付けは、かえって事態の複雑化を招くだけに終わるだろう。より具体的に言えば、領土の放棄という著しく困難な事柄を決断するようにウクライナに迫ったところで、ウクライナ国内の政治闘争を複雑にするだけで、必ずしも永続的な平和はもたらされない。「正統性」の問題を看過することもまた、安易に行うべきことではないのである。

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