インドの国防費は7割が人件費などの収益支出、そのうち半分を年金が占める[共和国記念日に開催される祝賀行事のリハーサルに参加したインド軍兵士=2025年1月24日、インド・コルカタ](C)EPA=時事

 

はじめに

 2024年4月~6月にかけて行われたインドの連邦議会下院選挙において、軍の採用制度が一部の州で投票行動に影響を及ぼした。インドの選挙では、外交・軍事問題は通常大きな争点とはならない。投票者は、生活に密着する物価や雇用への関心をもとに投票を行うと考えられている1

 しかし、今回は選挙前から軍の採用政策が争点化しており、実際北部諸州でのインド人民党(BJP)の後退要因になったとみられる。野党国民会議派は、選挙マニフェストに、モディ政権が2022年に始めた採用政策の撤回を明確に掲げた。「わが国兵士の社会保障と経済的保障のために、アグニパトを廃止し、陸海空軍が維持してきた正常な採用政策を復活させる。2

 この「アグニパト」とは、2022年6月、ラジナト・シン国防大臣が発表した任期付きの採用制度である。これまで兵士の正規採用では最長17年間勤続可能であったところを、アグニパトでは4年間の任期付き採用とする。またその採用の対象は、17歳6カ月から21歳に限られる。4年の任期終了後に曹(OR: Other Ranks)として軍に残れるのは4分の1のみである。アグニパトによる採用者は、任期終了後の身分の保証がなく、また退職一時金は支給されるものの、軍人年金の受給資格がない。入隊希望者の立場からみれば、「不安定な雇用」となる。  

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