水は澄んだが、海が豊かでなくなった――[兵庫県明石市の江井島漁港](筆者撮影、以下すべて)

 

「海がきれいになり過ぎた」

 兵庫県明石市にある江井ヶ島漁業協同組合を2024年秋に訪ねた。コンクリート造りで灰色の二階建ての建物が播磨灘に面して建っている。二階の窓の上に黒い丸ゴシック体で大きく「江井島漁協」と書いてある。ペンキは退色が進み、漁協の文字の一部が剥落していた。

 鮮やかな青色の半袖ポロシャツに黒いズボンといういで立ちで、組合長の橋本幹也さんが取材に応じてくれた。冒頭の言葉は、橋本さんが何度も口にしたぼやきだ。そして、兵庫県、ひいては瀬戸内海の多くの漁師が共通して持つ感想でもある。

橋本幹也組合長

 橋本さんが漁師になったのは、1979年のこと。海苔の養殖と、タコ壺、刺し網漁を生業にしている。当時は、魚もタコも獲れ、養殖も順調だった。「まさに右肩上がりの時代」だったと振り返る。

 明石の海はいま、沖合に出れば海水面から10メートル下まで見通すことができる。「昔の三倍くらいは見通せるようになった」と橋本さん。そしていま、魚もタコも獲れる量が以前より減り、海苔の品質の低下に悩まされている。

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