
カシミール紛争は、アフガニスタンも絡む「グレート・ゲーム」の国際的対立構図とつながっている[カシミール地方の都市スリナガルで警備に当たるインド兵=2025年5月12日](C)EPA=時事
インドとパキスタンの間の2025年5月の軍事衝突は、4日間で終了した。これは長期にわたる紛争の一断面であると同時に、現代世界の事情を反映した要素も持っているだろう。インドというGDP(国内総生産)で世界第3位(購買力平価)の経済力を持つ人口14.5億の核保有国が、人口2.4億のもう一つの核保有国と軍事衝突を繰り返す状況は、国際政治の全体構図に大きく影響する。本稿では、21世紀の国際政治の現実の中で、大局的・歴史的な視点から、カシミール紛争が持つ意味を考え直してみる。その際にカギとなるのは、海洋勢力と陸上勢力の対立構図にそった二元的世界観に依拠する「英米系地政学理論」と、複数の文明圏域の存在を前提にした多極的世界観に依拠する「大陸系地政学理論」だ(篠田英朗『戦争の地政学』[講談社、2023年])。
「グレート・ゲーム」の橋頭堡としてのインド亜大陸
カシミール紛争が、1947年にインドとパキスタンが大英帝国から独立した際に生まれた領土紛争であるのは確かだ。ヒンドゥー教徒とイスラム教徒を別々の国として独立させる方針になったとき、領土の区分けの処理がつかず、そのまま80年近くにわたって解決しない領土問題となっている。だが、それだけではない。もう少し大きな視点から見てみることもできる。
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