政局の根にあるのは、最大与党として首相を擁するタイ貢献党と、離脱した誇り党との対立[ソフトパワーイベント「SPLASH SOFT POWER FORUM 2025」に出席したペートンタン首相(右)と父のタクシン氏(左)=2025年7月9日、タイ・バンコク](C)AFP=時事

 

カンボジア前首相との私的な会話で陸軍高官を批判

 タイの連立政権を率いるペートーンターン・チンナワット首相が、進退を問われている。6月半ば、連立第2党の「タイの誇り党」(以下、誇り党)が離脱を表明し、アヌティン・チャーンウィーラクーン党首(副首相兼内相)以下8名が閣僚を辞任した。他の連立各党は残留したため、連立政権は国会下院の過半数を確保する見通しだ。しかし、政権運営は難航が予想される。国会内の争いに加え、司法が介入したためだ。国会上院は、ペートーンターン首相のフン・セン前首相に対する発言に違憲の疑いありとして首相解任の審理を憲法裁判所へ請求、憲法裁判所は7月1日に訴えを受理し、首相の職務一時停止を決定した。裁判所が違憲と判断した場合、首相は解職となる。

 政局のきっかけとなったのは、誇り党離脱の直前にリークされたペートーンターン首相とカンボジアのフン・セン前首相との電話の内容であった。タイとカンボジアの間では、5月末から国境をめぐる対立が激化していた。そのさなかにペートーンターンとフン・センが電話で交わした私的な会話がカンボジア側から流出し、タイ国内で大問題となった。会話のなかでペートーンターン首相が国境防衛にあたるタイ陸軍の幹部を批判し、カンボジアの意向を尊重するかのような発言をしていたためである。この発言が火種となり、タイ国ではペートーンターン首相の辞任を迫る動きが広がりつつある。6月末には、反タクシン派の市民や政治家がおよそ10年ぶりにバンコク都内で集結し、1万人規模のペートーンターン首相の辞任を要求する集会を開催した。

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