衆議院が解散された七月二十一日夜、麻生太郎首相は首相公邸で、河村建夫官房長官、松本純、浅野勝人両官房副長官に囲まれ、千賀子夫人の手料理に舌鼓を打っていた。河村氏は、記念すべき衆院解散の日に、首相にゆっくりと夕食をとってもらえる店を予約しようと計画していたのだが、首相が「山口県で洪水被害もあることだし、衆院議員四百八十人の首を切った後だし……」と断り、外出を控えて公邸での食事となったのだ。 この時の首相には、「苦戦が予想される衆院選に突っ込んでいくという悲壮感は感じられなかった」と同席者は言う。それよりも、むしろ高揚感に包まれ、「ブランデーを持ち出して来て、乾杯する勢いだった」。何がそんなに首相の心を高ぶらせたのか。首相周辺はその胸中をこんなふうに解説した。「達成感ですよ。解散、解散と言われ続けた一年でしたからね。ようやく成し遂げたという思いでしょう」 宰相が成し遂げるべき仕事は、外交、内政、他にいくらでもあるはずで、一年かけてようやく成し遂げたのが衆院解散だったというのは情けないかぎりだが、首相の気持ちはわからなくもない。なにしろ、この一年間、首相は解散の機会を逸し続けてきたのだ。小降りが本降りに……

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