九十九里の弟

執筆者:阿川佐和子2025年9月9日
ハマグリのお汁は、日本酒とハマグリだけでしっかりと味が出る(写真はイメージです)

 九十九里浜の漁師さんと仲良しになった。地元網元の一人息子コクさんである。コクさんは大型船を所有していて、早朝一時から海へ出て漁をするのが本業だが、浜に店を持っていて、獲ってきたハマグリ、伊勢エビ、イワシなどをお刺身や網焼きにしてお客さんに提供している。

「おいしいハマグリを食べに行こうよ」

 千葉のゴルフ仲間に誘われて、ワンラウンドした帰り、車で連れて行ってもらったのが最初である。

 千葉にはゴルフ目的でちょくちょくお邪魔するけれど、九十九里浜を訪れるのはそのときが初めてだった。

「本当にこの海岸、九十九里もあるの?」

 地元の友だちに聞くと、

「あるらしいよ」

 という曖昧なお答え。調べてみると、一里四キロで換算して九十九里ならば、全長四百キロ近くなければおかしい。が、実際にはおよそ六十六キロぐらいだそうである。それでも日本でいちばん長い砂浜には違いないのだが、どういうこと?

 一説には鎌倉幕府の初代将軍、源頼朝が奥州での戦の帰りにこの海岸を通りかかり、「ほほう、ずいぶん長い砂浜じゃのう。いったいどれほどの長さがあるのか」と、そんな言い方をしたかどうかは知らないけれど、とりあえず測ってみることにしたらしい。もちろん家来に命じたのであろうが、一里ごとに矢を立て、その本数を数えたところ、ちょうど九十九本になった。以来この海岸を「九十九里浜」と呼ぶようになったとさ。もっともその時代の一里は四キロでなく、六町すなわち約六百五十四メートルだったという。つまり六百五十四メートルかける九十九は六万四千七百四十六メートル。だいたい六十四、五キロに相当する。これで納得した。

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