9月、サンフランシスコ連邦地裁がトランプ大統領によるロサンゼルスへの州兵派遣をポッセ・コミタタス法(軍による国内法執行の禁止)違反と認定するなど、政軍関係をめぐる議論が続く[トランプ大統領の命令により首都ワシントンD.C.をパトロールする州兵たち=2025年8月25日](C)EPA=時事

はじめに

 2025年夏、米国トランプ政権は、首都ワシントンD.C.やロサンゼルスの治安対策として、州兵(National Guard)を投入した。このため、米国では、大統領権限の行使と地方自治の関係を巡り、議論が盛り上がっている。とりわけロサンゼルスでの派遣については、サンフランシスコ連邦地裁がポッセ・コミタタス法(軍による国内法執行の禁止)違反と判示し、州と連邦の権限関係や軍事力の政治利用をめぐる問題が一層浮き彫りになった。

 米国の同盟国である日本では、米軍基地があり、米軍すなわち連邦軍(United States Armed Forces)は日本人にも身近な存在である。しかし、米国本土には州兵という、もう一つの軍事組織が存在する。州兵は、国内の災害派遣、治安維持、時には海外派遣の任務を負っている。連邦軍が「国の軍」であれば、州兵は「市民の軍」と例えられる。
州兵は、20世紀の第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、湾岸戦争、21世紀に入ってからの対テロ戦争においても、大きな役割を果たしてきた。本稿は、州兵という米国独自の制度を整理し、米国社会を理解する一助とすることを目的としている。

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