「独軍を欧州最強にする」と宣言するメルツ首相[施政方針演説を行うメルツ首相=2025年5月14日、ドイツ・ベルリン](C) EPA=時事

 ドイツの軍需産業が中東欧での生産を増やす方向にある。最大手の企業ラインメタルは7月以降、ブルガリアとルーマニア、ラトビアのそれぞれの政府との間で、軍需品の現地生産に関する協定を結んでいる。火薬や砲弾のみならず歩兵戦闘車やミサイルといった大型の軍需品も現地生産を行う。いずれもロシアを念頭に置いた取り組みだ。

 またラインメタルは、ウクライナでも弾薬の現地生産を行うようだ。これはウクライナ側の要請に応えたもので、ロシアのドローン(無人機)による攻撃に関する防空システムの開発についても協議中だという。

 ここで、歴史の紐を解いてみたい。ドイツにはその時々の地政学的な事情を反映した造語があるが、19世紀に造られた言葉として「東方への衝動」(Drang nach Osten)というものがある。中東欧への進出によって植民を試みてきた歴史を持つドイツであるが、それが1871年のドイツ帝国の成立でさらに先鋭化し、この言葉が生まれた。

 今のドイツの軍需産業の動きからは、現代版の「東方への衝動」が生じているようにも見受けられる。もちろんかつてと異なり、ドイツに中東欧に対する領土的な野心はない。反面、ドイツにとっては中東欧がロシアとの間の緩衝地帯であるから、ロシアによる侵攻リスクを踏まえ中東欧の防衛をどう固めていくかは戦略的課題となっている。

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