UAE港湾企業は国家戦略を体現する中核的装置だ[シリアのダマスカスでタルトゥース港開発をめぐる戦略的協定に調印したスルタン・ビン・スライエムDP World会長(左)、中央はシリアのアフマド・シャラア暫定大統領=2025年7月13日](C)Rami Alsayed via Reuters Connect

 

Ⅰ. はじめに

 アラブ首長国連邦(UAE)は、石油収入に依拠した経済構造からの脱却と、国際的な貿易・物流拠点への転換を国家戦略として掲げてきた。その過程において、港湾企業の存在は単なるインフラ運営主体にとどまらず、国家の対外戦略を具体化する装置として重要な役割を果たしている。地政学的に不安定な中東にあって、港湾ネットワークの構築を通じて国際経済秩序への接続を強化し、アフリカ・アジア・欧州・南米を結ぶ広域的な経済回廊を形成している点は、国際経済ネットワークの具現化を示す好例と位置づけられる。

 注目すべきは、アブダビを拠点とするAD Ports Groupと、ドバイを拠点とするDP Worldという二大港湾企業の展開である。両社はいずれも政府系ファンド(SWF)の支援を受け、国家戦略と不可分の存在であるが、その発展の軌跡と海外展開の手法には顕著な違いがある。DP Worldが2000年代以降に漸進的に国際展開を進め、欧州やアジアを起点にグローバルな物流統合を図ってきたのに対し、AD Ports Groupは2020年代に入って急速な拡張路線を取り、短期間でアフリカ・南アジア・欧州・南米に拠点を広げた。

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