ガザ戦争の陰で変貌する中東産油国の「エネルギー地経学」戦略
2025年12月23日
サウジアラビアとUAEはグローバルなエネルギー転換の潮流変化に敏感に反応している[米サウジ投資フォーラムで発言するサウジのムハンマド皇太子(右)とトランプ大統領=2025年11月19日、アメリカ・ワシントンDC](C)AFP=時事
中東地域のエネルギー産業はいま、二つの世界的なトレンドの中心にある。一つは2020年代から加速するエネルギー転換の流れである。世界各国は2020年から国内での二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ目標」を掲げ、クリーンエネルギーを導入するとともに脱炭素燃料であるクリーン水素の製造プロジェクトの立上げに腐心してきた。中東地域は潜在的な水素輸出国として期待される一方、グローバルな石油需給の減退がもたらす負の経済的影響に最も脆弱な地域となりうるなど、現時点で「勝者」とも「敗者」とも言えないアンビバレントな立場に置かれている。
そしてもう一つはエネルギー生産国をめぐる地域紛争の激化である。中東とロシアにおける二つの戦争はいずれも地域政治と国際秩序に衝撃をもたらし、エネルギー需給にも大きな影響を及ぼしてきた。2022年のロシアによるウクライナ侵攻は欧州のエネルギー安全保障への脅威認識をこれまでになく高め、エネルギー価格の高騰を通じて中東産油国へ経済的な恩恵をもたらした。他方で2023年のイスラエルによるガザ侵攻は中東地域秩序の転換点となったものの、サウジアラビアなどの湾岸産油国を直接に巻き込んでいないことから、エネルギー価格を高騰させるには至っていない。しかしながら、紅海におけるイエメンのフーシ派による船舶攻撃やイラン・イスラエル間のミサイル攻撃の応酬が、地域のエネルギー開発・輸送の不確実性を高めていることは間違いない。
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