「稼げる公共交通」の神話が地方衰退を加速する

執筆者:山田和昭2025年12月25日
戦後の地方都市では、自動車依存を前提としたまちづくりが進んだ結果、駅前中心街はシャッター街化し、生活に必要なインフラの維持や行政サービスにかかる費用が増大していった[福島県の奥会津を走るJR只見線の列車](C)AaronChenPS2 / shutterstock.com

問題は「公共交通の赤字」ではない

 日本の地方交通、特にローカル線や地域バス路線が赤字と存続の危機に瀕しているのは、単に少子化・人口減少に起因するものではない。より根深い問題は、「公共交通は稼げるビジネス」という認識が、世界的に見れば日本固有の、そして危険な神話であるという点にある。

 東京、大阪、名古屋といった大都市圏は人口密度が極めて高く、特に東京23区は1平方キロメートルあたり約1万5700人に達する。この超高密度が、鉄道会社に安定した大量輸送需要と、日本版TOD(Transit Oriented Development=公共交通指向型開発)と呼ばれるビジネスモデルを実現した。これは、公共交通を軸とした巨大なターミナル駅や沿線開発による不動産・流通収益をもたらし、鉄道が単独で黒字を出す世界でも稀な形態である。しかし、この大都市の成功体験が、人口密度が低く採算が取れない地方にも、公共交通の赤字が問題だという誤った政策判断を強いてきた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。